王道と邪道/『惑星のさみだれ』(みんなの本気読書感想文)

雨宮夕日はごく普通の平凡大学生だった……ハズが、ある日現れた喋るトカゲに「地球の危機」を救う協力を依頼される。拒否するまもなく、既に指輪と能力が与えられ、早くも敵に襲われてしまった夕日を救ったのはなんとお隣さんの少女・さみだれ。救世主の降臨と思いきや、実は地球征服を企む魔王だった……。平凡な日常と奇妙な世界が交錯する新感覚ご近所ストーリー!!

少年画報社公式サイト

レコメンドレビュー

遊川藤万(@Asukawa_Toma)

ヒロインは魔王を名乗り、主人公はその下僕として魔王に仕える。

少年漫画の王道を歩いていくと、きっとこの作品には出会わない。
少年漫画の邪道を歩いていても、きっとこの作品には出会わない。

僕がどうやって出会ったかは覚えてない。多分、色々と迷子だった時期に出会った気がする。
仲間と協力して敵を倒して、快活に笑って、強引で馬鹿だけどみんなから好かれる主人公が僕は嫌いだった。だからこの作品と出会ったのだと思う。

誤解の無いように言っておくと、この作品の主人公がそうではないというわけではないのだ。完全にそうじゃないだけで、しっかりと主人公なのだ。少し違うのは少年漫画の主人公たちと違って、徐々に徐々に、ゆっくりゆっくり主人公になっていく。その過程こそがこの物語の真髄なのだ。

王道と邪道を行ったり来たりして、少年と青年を行ったり来たりして、物語はどこに辿り着くのか。
10巻というちょうど良い長さも読みやすくて◯

最後に一言、👆のあらすじはもうなんか大嘘です。『新感覚ご近所ストーリー』では無いです笑

メインレビュー

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隠れた名作との呼び声高いこの作品、水上先生といえば伏線回収とSFと時折容赦ない展開でお馴染みですが、連載開始からおよそ17年というタイミングでこの夏アニメ化が発表されました。大好きな作品のアニメ化というイベントに立ち会ったことがなかなか無かったので非常に感慨深いです。

この作品でも作者の水上先生の魅力がぎゅっと詰まってます。

秋谷稲近がアニムスの未来生(未来生というのは生まれ変った後の人生を指します)で全知という悲願を成し遂げた後のアニムスの姿を結末よりも先に描いて後から気づかせるという巧妙さ。時折設定を自ら破壊しにいくところとかもたまらんです。「超能力は適当でデタラメだから」って最後の最後でノイとムーが幻獣の三騎士になっちゃったりとかご都合主義と言ったらそれまでなんだけど、それを「アツい」と思わせるニクさ。勇者の剣と書いてクサカベとか、好きすぎる。

日下部の最後の「好きだ」「知ってる」のように非常にシンプルなセリフにもこもる情感。東雲さん(半月)の「天才とは無限の肯定!」などの長セリフに宿る説得力、実は設定の妙だけでなく言葉の扱いも相当にうまい。あんまり好きじゃなかった三日月の株を最後の最後に爆上げする三日月の願い事のエピソードとかもずるい。

そして後半にかけてたたみかけるパンチラインの数々には圧倒されます。それを可能にしているのは、圧倒的な演出力。ラストのさみだれの手を取りに行くシーン、序盤と過去を一気に回収して、夕日が主人公に、ヒーローになる。それを後押しするのは孤独だった頃にはいなかった仲間の力という王道少年漫画的展開、そうして飛び上がった先で夕日とさみだれは初めて対等な目線で本音をぶつけ合う。「僕がついてる」そう言って手を差し伸べる、このシーンのために他の全てのシーンが存在していたかのように、あまりにも綺麗に物語が収束する感じがたまらなく好きです。ヒーローが現れると、気丈で快活なさみだれがちゃんとヒロインになる。魔王と下僕が次第に主人公とヒロインになっていく過程の美しさこそがこの漫画の最も素晴らしいところ。絵が苦手とか、主人公が気に食わないとか、そういった壁を乗り越えたからこそのクライマックスのカタルシス。

水上作品では、過去や未来、過去生や未来生とかアカシックレコードとかの概念がよく出てくるけど、そういった超越的な次元に置かれている困難を人の営みによって打開する展開に、なんか毎回希望というか、光を見せてもらえる気がする。

惑星のさみだれを読んだら今度はスピリットサークルを読みましょう。
過去生と未来生、因縁に塗れた輪廻転生の物語です。

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