人が死ぬ瞬間に遺す、いくらのような赤い珠。口にしたものは、死者の最期の願いが見えるという―。十数年前の雑誌に一度だけ載った幻の漫画『ぎょらん』。作者の正体も不明ながら、ネット上では「ぎょらんは本当に存在する」という噂がまことしやかに囁かれていた。三十路のニート、御舟朱鷺は、大学一年のときに口した友人の「ぎょらん」に今も苦しんでいると語るが…。とある地方の葬儀会社で偶然に交錯する、「ぎょらん」を知る者たちの生。果たして「ぎょらん」とは一体何なのか。そして死者の願いは、遺された者に何をもたらすのか―。「R‐18文学賞」大賞受賞作家が描く、妖しくも切ない連作奇譚。
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レコメンドレビュー
ぞぞ(@Kindletramp)
物語を鑑賞した時、本当に心に来ると、作品へ抱いた感情をそっくりそのまま取っておきたい、と思います。
近年、そういう気持ちにしてくれたのが、町田その子さんの小説でした。著作には、本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』や、デビュー作『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』など、魅力的な作品が多くありますが、ここでは『チョコレートグラミー』の後に出版された傑作『ぎょらん』について、ご紹介したいと思います。
本作は、死者が死の瞬間に生み出すとされる「ぎょらん」にまつわる、一風変わった連作短編集です。ぎょらんを食べると、生み出したその死者の最期の願いが見えるといいます。死んだその人から愛されていたという実感があれば、ぎょらんは美しい存在になり得ますが、亡くなった人への罪悪感に苛まれていれば、どれだけの恨み言が詰まっているかと考え、その珠へ恐怖を感じるかもしれません。
けれど、物語は、そういった登場人物たちの思い込みを見事に裏切り、予想だにしない死者たちの思いへ誘っていきます。
意外な形でそれぞれのストーリーが繋がってもいて、それが詳らかになっていくにしたがい、どの人物にもその人の人生があり、ものの見方があって、これまでの歴史があるのだということがひしひしと感じられます。ぎょらんにまつわる群像劇ともとれる作風が、とても素敵です。
最終話にはあっと驚く仕掛けが満載。それぞれの物語が見事にひとつに収束し、ぎょらんにまつわる作品世界を作り上げています。
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