筆の力による、人と産業の蘇生/『土に贖う』(みんなの本気読書感想文)

明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)。昭和35年、江別市。蹄鉄屋の父を持つ雄一は、自身の通う小学校の畑が馬によって耕される様子を固唾を飲んで見つめていた。木が折れるような不吉な音を立てて、馬が倒れ、もがき、死んでいくまでをも。「俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」(「うまねむる」)。昭和26年、レンガ工場で最年少の頭目である吉正が担当している下方のひとり、渡が急死した。「人の旦那、殺しといてこれか」(「土に贖う」)など北海道を舞台に描かれた全7編。

「BOOK」データベース

レコメンドレビュー

syugo/sasakura(@sasakuradeep1)

札幌の蚕業や北見のハッカ農家など、北海道を中心に栄えた産業が時代の激流に呑まれ、終わりを告げる様を描いた7編の短編集。その時代に生きた労働者たちの切なさや想い、使役されたミンクや農耕馬といった生き物たちの息遣いと脈動が伝わる1冊。

メインレビュー

以下、内容やネタバレを含む場合があります

神武景気の追い風に乗った皮革用ミンクの飼養、まだ技術が未発達だったゆえの農耕馬や馬蹄職人の活躍など、北海道を中心にかつて日本で栄えた産業の終焉間際を描いた7編の短編集。 7編すべてが、苦味を噛み締めるような情動を覚える。この生業で生きると決めた人間の矜持や葛藤、その時代の『今』を必死で生きようとする労働者たちの姿勢、時代の担い手であった彼らの営みから、私たちが生きている『今』と歴史が地続きであると識る。碑に刻まれることもなく過ぎ去った市井の人々が甦り、その土地から発する土の薫りに酩酊した読後感。 北海道出身で、元羊飼いという異例の経歴から培われた著者の生き物への観察、生き物と接する人間の心中の描写が鮮やかで精細。読み手を登場人物らと同化させ、その時代のその土地に没入させる。 収録されている作品の中でも特に私は『南北海鳥異聞』に惹かれた。羽毛資源の需要拡大のため、アホウドリなどの海鳥を仕留める男の倫理観、この世への主観に揺さぶられた。 歴史は激動を繰り返す。激流に呑まれたとしても、本書からまた奮い立つためのPowerを授かれる。

皆さんのレビューもお待ちしております!

レビュー掲載先着50名様に500円分のAmazonギフト券を進呈します。
ぜひご参加ください!