レビューの場を借りた個人的な手紙/『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(みんなの本気読書感想文)

前作『社会人大学人見知り学部卒業見込』から約4年ぶり、新作の舞台はキューバ!航空券予約サイトで見つけた、たった1席の空席。何者かに背中を押されたかのように2016年夏、ひとりキューバへと旅立った。慣れない葉巻をくわえ、芸人としてカストロの演説に想いを馳せる。キューバはよかった。そんな旅エッセイでは終わらない。若林節を堪能できる新作オール書き下ろし! 

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レコメンドレビュー/遊川藤万

 「人生を変えた一冊」があるとしたら、この本はその対極、僕にとって「人生を変えずに済んだ一冊」だった。僕の敬愛する若林正恭という人間は、根暗で、人見知りで、ひねくれ者で、内弁慶で、一人が好きで、とても面倒くさい人間だった。この本を読んで感じた若林正恭という人間は、前向きで、人と触れ合って、少し捻くれてるけど、外向的で、それでいて少しだけ面倒くさい人間だった。僕が仲間だと思っていたあの人は、もうどこか遠くへ行ってしまったのだと思った。初めてその存在を知って、深く共感して、憧れた日から、もう十数年も経過している。人は変わる。当たり前のことなのかもしれない。

 もちろん寂しさはある。仲間だと思っていた人間が、気づけばずっと先を歩んでいた。僕は置いてけぼりを食らってしまった。それでも、変われないと思っていた自分に、「変われる」ということを示してくれた。「変える」のではなく「変わる」ことがあるのだと教えてくれた。同じ場所にいなくても、その背中を見て生きていける。僕は幸福だと思う。敬愛するその人が示してくれた道を、自分なりに歩いていけばいいと思った。

メインレビュー

以下、内容やネタバレを含む場合があります

 僕が彼に出会った頃、たしか中学生頃、僕は彼とは正反対の人間だったと思う。成績は優秀で、運動もできて、それなりに人気もあって、明るく陽気で優しい、真面目で穏やかでポジティブ。先生からも生徒からも好かれていたと思う。でも、正直に言うと無理をしていた。元々人見知りだし、ネガティブだし、小学校の低学年の頃は教室で一人で本を読んでいるようなタイプだった。その割に人の顔色を伺うのだけは得意で、成長するにつれてそれを上手に扱えるようになっていた。そのおかげもあって、それなりに上手に立ち回れていたと思う。その頃は人に嫌われたり、拒絶されたり、迷惑をかけたりが怖くて仕方がなかった。その摩擦を極力無くすために、自分を偽ることを覚えた。

 そんな時間を続けていたある時にオードリー若林という男をテレビで見かけた。テレビで見る彼は、大人相手には明るく爽やかに振る舞って、時々、ネガティブで人見知りな姿を見せていた。少し怖がりながら、自分の抱えている闇の一部を語る姿に強烈なシンパシーを覚えた。同時に「あ、この人まだまだ底は見せてないんだろうな」とも思った。自分の内心を隠して生きてきた僕にとってはその姿は衝撃的で、同じような傷を抱えて他人と自分の在り方に迷う人がいるのだと、知ることができて嬉しかった。その頃、生まれて初めて深夜ラジオを聴いた。

 中学校で無理をしていた僕は、彼への憧れを拗らせていたところもあり、真逆のキャラになった。ひねくれていて、人が怖いのを隠さないようになった。徐々に自分の本心や本音と向き合えるようになった。

 そんなこんなで憧れ続けていた彼も、歳を重ねるに連れて変わっていった。その変化を感じることができるのがこのエッセイ。「血の通った関係と没頭」それが彼が示した答えだった。欠落を抱えて、それでも前に進んできた彼の存在そのものが、僕の背中を押す。「血の通った関係と没頭」それは求めれば傷を負う可能性がある。その傷すらも、認め許すことができるものの存在が、いつの日か僕たちの背中を押してくれるのだと、彼の歩んだ道が示している。

 僕は変わらずこの道を歩き続けようと思う。でも、その道を逸れても、違う道を選んでも良いのだと思う。彼は多分、僕だけじゃなくて多くの人を動かしてきたのだと思う。迷い葛藤する姿も、前向き歩き出す姿も、どんな姿を見せたとしても、僕たちにとって彼はただ生きているだけで、僕らの支えになっている。

 もし僕がこれからのあなたに求めることがあるとしたら、それはただ一つだけ。
 若林さん、健康でいてくれればそれで良いです。

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